こんなセミナーでした!
- 株式会社ノットワールド佐々木文人氏によるご講演
- 株式会社ジェイノベーションズ大森峻太氏によるご講演
- 質疑応答
今回のMACHIBIYAセミナーにご登壇いただいたのは、インバウンド業界のプロとして高い人気を持つ、佐々木文人氏(写真左)と大森峻太氏(写真右)。
世代も経歴も異なるお二人ですが、共通しているのはどちらも「日本のインバウンド業界に新たな波を起こそうとしている」ということ。
ご自身が実際に海外で経験し学んだことを活かし、まだ誰も成功していない分野に熱くチャレンジし続けています。
お二人のもつ考えの違いを踏まえ、その根底で共通しているマインドとはいったい何なのかを、探っていきました。
【佐々木 文人】ツアーだからこそ見つけられる、まちの魅力を伝えたい
まず初めにご登壇いただいたのは、株式会社ノットワールドの代表として数々のツアーを企画し人気を呼んでいる、佐々木文人氏。
学生時代は、「何かやりたいとは思っているが、何をすればいいのか分からない」という状態でした。
就活後とりあえず選んだ大企業に入社後、社会人4年目に転職したのはコンサルティング会社。
仕事をしていく中で、「こうやっていきたい」という理想が徐々に見つかり、会社を辞め1年間の旅に出ます。
日本と外国の文化の違いを大きく感じる経験をした佐々木氏は、日本に帰ってきたとき、挑戦したいことが3つありました。
- 1つ目は、ゲストハウスを作り、もっと多くの人に日本へ泊まりに来てもらうこと。
- 2つ目は、日本の田舎を見てもらうこと。
- 3つ目は、降り立ったらすぐに参加できるような着地型ツアーを作ること。
しかしゲストハウスとして使える最適な物件を見つけることができなかったことから、まず始めたのが「外国人観光客向けの食べ歩きツアー」。最初は参加者を集めるに苦労したものの、現在ではなんと年間1万人もの規模のツアーになりました。
観光客が求めるツアーガイド3つのポイント
- ツアーが楽しそうだということ
- ツアーでないといけないという特別感を出すこと
- ローカルな情報に触れることができること
スマートフォンを使えばその場で何でも探し出し、自力でそこに行くことまでできる今。
自分たちだけでは気づくことのできないその土地の魅力を伝えていくことが、ガイドのもつ重要な役割の1つです。
ガイド付きツアーの集客方法として佐々木氏が最も意識しているのは、トリップアドバイザーなどにおける口コミ数です。
ゲストの満足度を上げレビューを書いてもらうことによる効果は、何よりも大きいのです。
特にツアーものは、他分野に比べターゲットとする層が狭くプロモーションが困難なため、満足度の高さが最も重要視されます。ガイドの養成においても、「この人なら大丈夫」という段階までに到達した人のみを現場に送り出しています。
また、ツアーを企画していく中で特に重要なのが、PDCAサイクルを回していくことです。「ツアー企画」→「ガイド養成」→「販売(集客)」の確かな流れを作っていくことで、ゲストの満足度を高めるというゴールに近づけていきます。
国別に見る外国人観光客の求め方の違い
- 台湾人・韓国人(観光客の4割):自分で旅行できるほど自立性が高い/ブログで情報を得る/よりディープなものを求める
- 中国人:わかりやすい内容を求める
- 欧米人:歴史・文化に対する関心が高い
あくまでも「美味しいものは美味しい、綺麗なものは綺麗」という根本の考え方は同じではある外国人観光客。
しかし、国別で見られるツアーに対する価値観の差異は、その国で流れているメディアの特徴の違いによるものです。
ブログから情報を獲得する方法が広まっている台湾では、よりディープな体験を求めるというその国ならではの価値観が生まれています。
一番大事なことは、「とにかくやってみて、とにかく失敗して、とにかく磨き続けること」。
そして学生時代にできることは、「消費者目線を身に付けること」。
消費者目線を身に付けるための例として、「旅にお金を使うこと」があります。その町の「イイもの」に触れておくことで、「こういう人が来ているんだ」といった気づきのもと周りの様子も観察でき、学びの機会として有効です。
いずれは、「こういう人にはこういうものが刺さる」という推測力を身に付けられるのです。
【大森 峻太】まちの良さを知るためには、現地の人と交流すること
次にご登壇いただいたのは、株式会社ジェイノベーションズの代表として多くのツアーガイドを集め、ボランティアで活躍できるガイドの育成に努める大森峻太氏。
大学生の頃はなんと、2か月に1回は海外に行くような生活を送っていました。卒業後就職しなかったのは、自分にしみついてしまっている「日本の常識」を疑いたかったから。そこで大森氏は、2年間海外で過ごすことを決意しました。
「どうしたらその町の良さを知れるんだろうか?」
そんなことを考える中、大森氏がたどり着いた答えは、「現地の人と交流すること」。
帰国後、「海外の人たちに向けて、日本にいる自分から何かできることはないだろうか」と考えた当時の気持ちは、今の活動の原点となっています。
最初に始めたのは、案内したい日本人と観光客のマッチングサービス。
活動を始めたことにより分かったのは、外国人観光客と交流したいと思っている日本人が予想以上に多くいること。
サービスのユーザーはどんどん増えていき、とあるニュース番組に取り上げられたのをきっかけに、たった1日で2千人ものユーザーが増えました。
大森氏が現在最も注目しているのは、2018年1月4日に施行された、改正通訳案内士法。
資格を持っていなくても、誰でもガイドができるという新しい制度です。できそうなガイドさんにとことん声をかけ、新たにツアーをスタートさせた大森氏。現在は、渋谷で「オフィシャルツアー」を開催して運営しています。法律が施行されたことで、「ガイドが大勢いるとレベルが下がってしまうのでは?」という懸念の声もあります。しかし、ガイドに対する評価制度があることから、評価レベルの高いガイドが生まれるという良い効果をもたらしています。
また、今日本では外国人観光客から、意外なものが人気を集めていることをみなさんご存知でしょうか?
外国人観光客から意外な人気を集めているモノ
- 自動販売機
- 地元のおばちゃんがやっている豆腐屋さん
- 神社のおみくじ(特に盛り上がるのが、恋みくじ)
- ゲームセンター(主に高校生からの人気)
- 100種類以上ある日本酒のお店
最近人気が高いのが、「自動販売機」です。歩けばそこら中にある日本の自動販売機は、外国人観光客にとっては大変珍しいもの。変わり種自販機に無料で使える自販機など、思わず「へえ~」と言いたくなる豆知識なども交えながら、日本固有の文化でちょっとした時間にも観光客を楽しませます。これも、歴史と生活がハッキリ分かれた欧米諸国とは一味違う日本ツアーならではの楽しみ方です。
また、豆腐屋のおばちゃんなど、地元の人との直接的なコミュニケーションはゲストから多くの好評を得ています。元々プランには組み込まれていなくても、実際に訪れるからこそ知れる新たなまちの一面が、ゲストにとっても大きな楽しみの1つとなっているのです。
さらに、ネットを利用する仕組みとして海外で登場したのが、「フリーツアーモデル」。このモデルは、完全に無料化するのではなく、ツアーの満足度に応じて顧客自身がそれに見合う対価を払うというものです。今はまだ欧米諸国でのみ広まっている仕組みですが、大森氏はいずれこれを日本にも取り入れ、新たな文化を形成していこうとしています。しかし元々チップ文化が根付いていない日本において、これを定着させるのはとても難しいのが現状です。
ツアーが人気を得るための5つのキーワード
- エンターテイメントガイド
- 手軽にいつでも
- つまみぐい
- 街を巻き込んだオフィシャルツアー
- 欧米豪系の旅のスタイル
最大のポイントは、「見逃したくない×つまみぐい×ローカル」。外国人観光客の多くは、ローカルの「つまみ食い」を求めています。メインのものではなく、間を繋げるようなちょっとした時間で、それまで興味のなかったものにハマってくれることがあります。最近では、地下アイドルのライブを観に行くというプランを組み込むなんてこともあるのです。ライブ後には、アイドルにハマってしまう人もチラホラ。
外国人観光客の求め方の違いは、その特徴の違いから「アジア人」と「欧米人」に分けられます。各々が持つ文化的違いにより生じます。
エリア別に見る外国人観光客の求め方の違い
- アジア人:モノ消費/簡単に質問しない/滞在期間が短い/計画が固まっている
- 欧米人:コト消費/すぐ質問する/滞在期間が長い/計画性なし
大森氏が若者に伝えたいのは、とにかくやりたいことに挑戦して、頭を使ってその経験を活かし続けるということ。
現在、バックパッカーなどの貴重な留学経験をする人たちが増えてきています。しかし残念なことに、その経験を日本に帰ってきてから十分に活かせている人が少ないというのが現状です。
活かせる人と活かせない人の違いは、「頭で考えているかどうか」。
日本に帰ってきてから気づく自国の特徴をよく考えるようにすれば、「これをどう使うことができるか」という思考を思いつけるようになるのです。
質疑応答
今回のセミナーでは、対談形式による質疑応答タイムを設け、テーマの内容についてさらに深く堀り下げていきました。ツアー業界の一線で活躍されるお二人にしか聞けないことを、思い切って聞いてみました。
①ライバルは翻訳機?
Q.「翻訳機」の普及について、どう思われますか?
A.
佐々木氏:私たちのライバルはGoogleです。翻訳機などで得られる「調べればわかること」に加え、ツアーだからこその新たな付加価値を生み出すことが、非常に大切なことなのです。「楽しかった」と言ってもらえるようなエンターテインメント性のあるガイドがいれば、いいと思いますね~。
②渋谷はガイドするにあたり騒がしすぎやしないか?
Q.渋谷の街を歩くツアープランがあるようですが、渋谷は「観光地」と言うには騒がしすぎるのではないでしょうか。あのような環境でも、ガイドさんの話がきちんと聞こえるのでしょうか?
A.
大森氏:渋谷におけるツアー定員は、10人程度に絞るようにしています。あとはガイドの力量にかかっています。ちゃんとゲストの耳に届いているか、気を付けるようにガイドに指導していますよ。あとは、30~40人いる大勢のツアーでは無線イヤホンを使用するなど、様々な道具を活用するようにしてます!
③フリーツアーの日本における展開
Q.フリーツアーを日本でやるとしたら、どう工夫する必要があると思いますか?
A.
大森氏:海外では、チップ文化があるじゃないですか。チップそのものの平均値みたいなのもあるので、やりやすいんです。しかし日本ではそういう文化がないんですよね…
佐々木氏:ガイド側からチップ料金を提案している海外の動画を、ゲストの方に見せられたことがあります!「こういう風にやってほしい」という意味だったんですかね。
大森氏:自分の普段の生活や生計の立て方などを話して、チップを払わせる海外のガイドさんもいるらしいですよ。
佐々木氏:海外でそれは、大道芸人さんも同じですからね!(笑)
大森さん:日本では今意外と、ストリートミュージシャンの人たちが海外からの旅行客によってかなり儲けていたりするんですよ!
④ガイドとして選ばれるためには?
Q.「選ばれるガイド」に求められるスキルやマインドとは何でしょうか?
A,
大森氏:何か1つ特徴を持っていること。最低限必要な語学力などに加え、例えばおばあちゃんだったら段差のあるところは避けるとか、「相手によって合わせられる」という対応力はかなり求められます。
佐々木氏:僕たちが研修でガイドさんに伝えているのは「まちに対する愛」。ガイドに
対する愛ももちろんですが、まちに配慮できることも大切です。「想い」があれば、ツアーに飽きてしまうようなこともなくなります。
大森氏:僕の知り合いが言っていたのは、「自分の親をその人に任せられるか」を基準に選んでいるということ。それは、なるほどなあと思いましたね。
Q.どうやって、そのようなガイドとしてのマインドを学んでいけばいいのでしょうか?
A.
佐々木氏:自分自身が旅行して、人に触れることが大事です。一番は原体験をもつこと。
細かいスキルに関しては繰り返しやっていく上で身に付けられます。できるガイドさんは、1回1回の振り返りがすごく、成長スピードも速い。いかに反省を次に活かしていけるかによるのではないでしょうか。
大森氏:「そこまでやる!?」というくらいのマインドをもっているガイドさんしか、採
用していません。スキルに関しては、周りからのフィードバックを繰り返していくしかないと思います。向き・不向きのある職業だとは思いますね。
⑤ガイドは稼げるのか?
Q.ズバリ、ガイドで稼ぐことはできるのでしょうか?
A.
佐々木氏:稼げる状態をつくっていきたいと思っています。ガイドで稼げる人は現在、ほんの一握りだけで、しかもそれも、10泊くらいの長期ツアーをやっている特殊なガイドさんだけです。
大森氏:Airbnbは今、どんどん稼げるようになっていますよ。語学力やおもてなし力のようなものがあれば、学生でも1時間に2万弱くらい稼げるバイトになるのではないでしょうか?しかし観光客の来る時期によるものなので、浮き沈みが激しいでしょうね。
佐々木氏;いつもそこにいるようなおっちゃんは、半日で10万くらい稼いでいたりもするんじゃないですかね…
大森氏:実は僕は、週1回ほどのペースでテレビに出ています。それは、改正通訳案内士法が施行したときに第一人者としてツアーを始めたのが理由です。とにかくスピードって大事なんです。もちろん実力もあるけど、とにかくやるなら今ですね!(笑)
佐々木氏:そうですね!今ですね!!
まとめ
今回のセミナーを下記図解にてまとめてみました。
2020年の東京オリンピックも開催されるこれからの日本。
グローバル化に伴い、海外に向けてその魅力を発信していくことの重要性はますます高まってきます。
もし道端でたまたま出会った外国人に、「あなたのまちの魅力は?」と聞かれたら、すぐに答えることはできるでしょうか?
外に目を向け内に目を向け、そこで感じた違いを活かしていくことで、そのエリアのもつ新たな可能性を見出すことができます。
まずは、自分のまちについてよく知っておくことから始めてみませんか。
●講師プロフィール
佐々木文人(ささきふみと)氏
株式会社ノットワールド 代表取締役。
1983年、愛媛県生まれ、横浜育ち。大学卒業後、保険会社・コンサルティングファームを経て、結婚を機に寿退社し、1年間の世界一周新婚旅行へ。帰国後、2014年2月、中高大の友人とともにノットワールドを創業。東京・京都を中心に食べ歩きツアー、プライベートツアーを手がける。
趣味は旅行と食べ歩きで、公私混同まっしぐら。
大森峻太(おおもりしゅんた)氏
株式会社ジェイノベーションズ 代表取締役社長。
1989年、神奈川県生まれ。大学在学中、3度の海外留学を経験。大学卒業後は1年半かけて海外を周る。帰国後、外国人旅行者向けボランティアガイド団体を立ち上げ、約5,000人のボランティアガイドを全国で集める。2016年12月にインバウンド事業をメインに手掛ける「株式会社ジェイノベーションズ」を設立。
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