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人口減少社会における“発想の転換” 【2018/1/15開催】
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こんなセミナーでした!
POINT1:人口転出超過数日本一からの挑戦
POINT2:マイナスイメージを逆手に取った「ブランディング」
POINT3:人口定着を促すために、新しい産業をつくる
第52回MACHIBIYAセミナーは、前 横須賀市長であり、早稲田大学環境総合研究センター招聘研究員としてご活躍されている吉田 雄人氏にご講演頂きました。全国各地で大きな課題となっている人口減少問題ですが、既存の手法では十分な効果が得られず、新たな切り口の解決方法が模索されています。吉田氏は横須賀市長として「発想を転換」することで、横須賀のまちを活性化されました。
そのほか、社会課題解決を学ぶ公共人材育成のための「吉田ゼミ」運営や、里山再生に取り組む活動団体プラットフォーム「Japan Times Satoyama 推進コンソーシアム」などの活動に取り組んでいらっしゃるまちづくりのスペシャリストでいらっしゃいます。
人口減少問題は、選ばれるまちになることで解決できる
横須賀市の財政事情を解消するために奮闘した1期目を終え、吉田氏は「選ばれるまち 横須賀」をスローガンに掲げて立候補し、横須賀市長に再選しました。その矢先、横須賀市の人口転出超過率が日本一を記録。人口減少による経済的危機感を抱いた吉田氏は、それを逆手にとって、「日本一からの挑戦」として前向きに人口減少問題に取り組み始められました。
「横須賀=住みにくい?」
横須賀市といえば「基地のまち」というイメージが一般的ですが、それが定着しているがゆえに「治安が悪い」「住みにくい」などの事実とはまったく違うイメージが広まっていることが、横須賀市の課題。
その一方で、横須賀市民からの評価は高く、82.3%の市民が「市内に住み続けたい」と回答しています。
市民の皆さんは住み続けたいと思っているのに、転出超過率が高くなってしまう原因は“横須賀の良さをうまく伝えられていなかった”ために、転出人数より多くの転入人数を呼び込むことができなかったこと。そして、“働く場所がない(商業の衰退、事業所数の減少)こと”が課題として挙げられます。
このとき考えなければいけないことは「雇用増の可能性がある産業は何か」「減少した人口の消費分を来訪者で補えないか」ということです。また定住者を増やすことができなくても、来訪者を増やすことで、横須賀市全体の経済規模を拡大することができると考えました。
市民にとっても「基地のまち」というイメージが強い横須賀市。横須賀市のイメージについて、市民の84.6%が「米軍基地・自衛隊がある”基地のまち”」と回答するほど、強いイメージが定着しています。
この「基地のまち」というイメージがプラスの印象を与えるのであればよかったのですが、残念ながらマイナスイメージを抱かれてしまうことがほとんどです。実際は県内有数の治安の良さを誇る横須賀市であるにもかかわらず、「基地のまち」というイメージだけが一人歩きしてしまったために、住んでもらえない、来てもらえないという悪循環が生まれていました。
マイナスをプラスに変える「発想の転換」
ここまで浸透したイメージを変えることは容易ではありません。私はすでにある「基地のまち」のイメージを払拭するのではなく、マイナスイメージをプラスイメージに転換することで、みなさんに選んでもらえるまちづくりに取り組みました。
私が取り組みを企画・運営するにあたって大切にしたのは、“いかに基地があることをプラスに活かすことができるか”という取り組みであることです。よこすか海軍カレーやヨコスカネイビーバーガーなどの海軍グルメはもちろん、横須賀軍港めぐりや基地開放イベントなどの観光イベント開催に取り組みました。
海軍カレーは積極的に全国展開を進めた一方、ヨコスカネイビーバーガーは「オリジナルに忠実なレシピ」や「米軍基地周辺限定」など徹底した地元主義にこだわり抜いた結果、観光誘致にも抜群の効果をもたらしました。
なかでも海外旅行で余った外貨 (関東近郊で約1100億円の見込み!)に着目した「ドル旅」は、市内各店での買い物をドルで支払うことができる革新的な取り組みとして、各種メディアに取り上げられ、大きな反響を得ました。当初はドル旅に対する懐疑的な意見も多かったのですが、主要集客施設で大幅に来場者が増加したこともあり、昨年度からは通年で実施されるイベント「ドル街」にまで成長しました。
基地がある横須賀市だからこそできること
横須賀市は基地のまちというイメージを払拭するのではなく、活用するという「発想の転換」によって成功することができた地域ブランディング事例だと思います。
次に私が取り組んだのは、定住促進です。
米海軍基地は、横須賀市の市内において「擬似的な外国」としての重要なアピールポイントです。
私はこれを「生きた英語を学べるまち」としてブランディングすることで、定住促進を図りました。
ここにも、従来住みにくさの原因に挙げられていた基地を、定住の魅力として活用する「発想の転換」があります。
特に米海軍基地内の教育機関は海外に留学するよりも格安に抑えたほか、日本の教育機関への単位振替を実現したことで、多くの若者たちがこの制度に魅力を感じて利用してくれました。
生きた英語を学べるまちとしての環境を整えたことで、これまで転出率の高かった20〜40代の定住率を上げることができた、横須賀市ならではの解決法です。
横須賀市民限定で、横須賀らしい取り組みこそ、定住促進のカギになると思います。
「横須賀に暮らし、横須賀で働く」ことを支援するために
転入を増やすためには、働く場所の増加が必要です。横須賀市では、市外事業者の誘致および市内事業者の新事業チャレンジを促すために、スタートアップの支援を積極的に行っています。
全事業所数の8.5%に満たない創業3年以下の企業で、全雇用人数の37.6%を担うほど、若い企業には雇用創出力があります。
しかしながら行政からの一方的な支援だけでは、事業者の育成ノウハウが醸成されず、なかなかスタートアップ企業が増えないという課題がありました。これに対して横須賀市は、スタートアップを環境づくりの観点から支援することとし「ヨコスカバレー構想」を立ち上げました。ヨコスカバレー構想は今後10年間で市内に100社のスタートアップ企業を集積し、雇用換算で100億円を創出することを目標としています。
覚悟から生まれる「発想の転換」がイノベーションを創り出す
横須賀は「基地のまち」から脱却しようとするあまり、ブランディングに苦戦していました。横須賀の知名度を上げてくれていたそのイメージを、逆に活用したことが私の先導したまちづくりです。マイナスイメージを、都市資源としてプラスに活用していくことが、これからのまちづくりに求められています。
「自分の自治体でできないのなら、他にできる自治体はない」
これから地方創生に携わっていく皆さんには、そう言い切れるほど、その地域に特化した取り組みを完遂する覚悟を持って活躍してほしいと思います。
まとめ
吉田氏の熱い言葉で、会場全体にそれぞれの想いが満ちていくような素敵なセミナーでした。発想の転換が地域の活性に繋がるカギであること、マイナスをプラスに変える発想法を知ることができて勉強になりました。
MACHIBIYAインタビュー
オススメの本は、「奇跡のりんご」「ていだかんかん」
オススメのまちは、「横須賀」。その中でも特に、久里浜地区がオススメ!
大事にしている言葉は、「やればできる(為せば成る)」 「見る前に飛べ」
吉田 雄人氏(前・横須賀市長/早稲田大学環境総合研究センター招聘研究員)
1975年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュア(株)にて3年弱勤務。
退職後、早稲田大学大学院に通いながら、2003年の横須賀市議会議員選挙に立候補し、初当選。2009年の横須賀市長選挙で初当選し、2013年に再選。2017年7月に退任するまで、完全無所属を貫いた。
退任後は地域課題にとりくむ民間企業のコンサルテーションで身過ぎ世過ぎするかたわら、社会課題解決を学ぶ公共人材育成のための「吉田ゼミ」の開催、全国の里山再生にとりくむ活動団体のプラットフォーム「Japan Times Satoyama推進コンソーシアム」で事務局長に就任、少年院等を退院した若者の自立支援を行う「NPO法人なんとかなる」共同代表を務めている。(2018年1月現在)