目次
まちを編集して発信する技術【2017/9/22開催】
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こんなセミナーでした!
POINT1:じゃらん時代に学んだ仕事の流儀
POINT2:編集のプロが語る“編集”
POINT3:編集者視点のまちづくり
まちと人のサポート
第49回MACHIBIYAセミナーは観光まちづくりカウンセラーの今村 まゆみ氏にご講演頂きました。
今村氏は新卒でリクルートに入社され、国内旅行情報誌「じゃらん」編集部に所属されていらっしゃいました。うち6年間は、「じゃらんガイドブック」編集長を務められ、現在はフリーランスとして、「観光まちづくりカウンセラー」「エディタ-」として活動されていらっしゃいます。
実は「まち」だけではなく、「人」のサポートもしていて、二足のわらじをはいて、お仕事をされているとのことです。
私自身、仕事に悩んだことも多かったんです。そんな時にキャリアカウンセラーという資格をとって、“仕事に迷ったときには、こういう考え方に立ち帰ればいいんだ”ということに気づくことができました。同時に、もっと早く知っておきたかったと実感しました。だからこそ今も社会人向けのキャリア研修では、仕事の手を休め、ビジネスパーソンとしての自分を振り返り、これからの在り方を考えてもらう時間を提供しています。
「踊り場」のように階段を昇り降りする途中で、考えを見直したり、違う出口を考えられたりできるよう引き続きサポートしていきます。
上司の言葉
「右手にロマン、左手にソロバン、心にジョーダンを持て」
じゃらん時代の上司に言われた言葉です。
ロマンは世の中変えてやろうぜっていう気概。しかし、それだけではなくソロバンを持って収支を考える。そして心にはいつも遊び心を持って楽しもうというメッセージを伝えられ、それが強く記憶に残っています。
「できないは仕事じゃない!」
今は露天風呂を貸し切ることは容易に感じますよね。露天風呂がついている個室もあるぐらいですし。私が20代の時は露天風呂を貸し切るなんてことは考えられませんでした。当時のじゃらん編集部で、“どういうお風呂だったら入りたいか”を出し合い、カップルで旅行した際にご飯も部屋も一緒なのにお風呂だけ別々・・・、一緒のお風呂で同じ景色を見られたら良いよねってアイデアがでました。“でも、さすがにそれは無理かな”というムードになった時、編集長が、「できないをできるにするのが俺らの仕事だろう」ってみんなに喝を入れました。すると、全国の宿泊施設を訪問している、じゃらんの営業マンたちが、いくつもの温泉宿に掛け合っくれて、貸切り露天風呂サービスを実現! 特集で取り上げると、閑古鳥が鳴いていた宿を人気宿に変えることができました!
これが“業界を変えていく”ということなんだと気付く経験となりました。
「事業の目的」と「自分なりの目的」
人々が語る「不」の言葉にニーズは眠っています。
“「不」をなくしてあげることが顧客のためになる。”
このような考えのもと、じゃらんは生まれました。じゃらんを立ち上げる前に、一般の方に調査すると、多くの不満があったそうです。
当時、旅行と言えば情報が少なく、旅行会社での予約が中心。旅行雑誌もエリア別のガイドブックしかありませんでした。勝負デートで使えるホテルはどこか?サークル合宿で使えそうな宿は?など、目的に合わせて探そうとすると、それにフィットする媒体はありませんでした。そこで、エリアだけでなく、旅行目的からも選べるブッキングメディアがコンセプトになりました。
このように、仕事をするうえで人々の「不」を解決し、事業の成果を出すことはもちろん大切ですが、それだけではなく、その仕事の中に自分なりの目的を持つことが重要です。当時の上司にそれを問われ、自分なりの目的を考え続けた時に、自分は事業を通じて“田舎や過疎地に光を当てたい”と思うようになりました。
ターゲット設定と差別化の重要性
じゃらんは老若男女をターゲットに創刊しました。テレビCMや広告を使い、創刊号は完売。しかし、次号で部数は伸び悩みました。原因はターゲットを明確にできていなかったことにあります。購入してくれたミドルエイジ層は“質の良い旅館に泊まりたい”と考えていたことに対して、掲載されている宿泊施設は民宿やペンションも多かったのです。
そうした経験から、しっかりとターゲットを定めることやペルソナ像を設定することの重要性に気づき、軌道修正をしながら、読者を確実に掴むことを関係者全員で意識するようになっていきました。
競合他社との差別化についてじゃらん担当メンバーと考えていた時の話です。特集の企画やキャッチフレーズを徹底的にみんなで会議し、“これは本当にじゃらんらしいか?”、“顧客が満足できるものか?”と議論し続けました。ピンボケしているものや差別化しきれていないものに関しては、上司からよく「眠い、眠い!もっと尖らせて!」と指摘を受けていました。
徹底してセグメントされた企画だからこそ、ヒットさせることができた企画も多々あります。
編集とは?
編集とは、情報を集めて、編み込むこと。
今まで編集に携わってきて、辞書や自身の経験から、「編集」という言葉を私なりに定義づけるなら、
「一定の方向性に従って情報を収集し、取捨選択し、関連づけたり、分類したり、並べ替えたり、さらには新たに追加したりして、一定の形態にまとめあげる工程。」
最後の一定の形態にまとめあげるというのは、1冊の雑誌、パンフレット、チラシ、メディア向けツアー、ホームページなどのことを指します。
まちにおける編集者の役割
一言で地域活性化と言っても、
・観光客を増やしたいのか
・もっと消費させたいのか
・観光をきっかけに住んでもらいたいのか
目的によって伝えることが変わってくるので、ここを明確にすることが何よりも重要です。
目的が明確なうえで差別化できる地域資源は何かを考える。喜んでくれるターゲットは誰かを考えて、情報を集めてまとめるのが編集者の役割です。
青梅・御嶽山・奥多摩エリアでの活性化
青梅市は駅前にレトロな商店街がある。
御嶽山は山野草が咲く標高900mの山がある。
奥多摩は湖と日本一の巨樹数。
これらの要素から「東京のハイキングスポットをまとめた冊子をつくろう!」となったけど、私のなかには“本当にそれでいいのか?”という疑問が浮かびました。
“今何が起きていて、どういうことを目的としたいのかを考えましょう”と伝え、再度考え直すことに。
まずは何に「不」を感じているのかを共有することにしました。
次に観光資源を洗い出しの実施。各地にどんな観光資源があり、どんな価値があるのかを明確にしていき、「訴求力があるもの」「当時のトレンド」を絡めて考えました。そこから観光資源を絞り、「東京のパワースポット!」という名目で発信。メディアツアーも実施し、足りないコンテンツは追加をしていきました。結果として、訪れる客層がどんどん変わっていきました。
ネットやテレビに掲載されるようになり、まちが明るくなっていきました。
まちづくりにおける危機意識
まちづくりをサポートしていて、成果が出た時は何にも変えがたい喜びを得られることがこの仕事のやりがいです。事業の依頼を受けて1年程度の短い期間で成果を出しきらなくてはいけないことが多いですが、事業が終わったあとにどうなっているかが重要です。青梅・御嶽山・奥多摩エリアの場合は、その地域における人々がどうすれば人が来るのかを自ら考えて動いていく文化が根付いたことが何よりも成果だったと感じています。
その地域に危機感があるところは成果が出ます、本気度が違うから。
特に御嶽山の方たちは“集客が年間40万人を切ったら終わる”という強い危機意識をみんなが持っていて、地域づくりに神主さんやまちの人たちが継続して努力をしていました。そこで当時ペットブームというトレンドがあったことと、御嶽山が狼を祀っていたこともあり、ペット連れも歓迎の神社であることを訴求し、サービスを強化したところ、ペット連れの観光客が増加しました。こうした仕掛けを自発的に実施し、今は、オリンピックを見据えて、インバウンドをターゲットに芸者さんを呼んで「天空の芸者ナイト」というイベントを行っています。
まとめ
実体験に沿ったエピソードながらもマーケティングの極意が詰まった素敵なセミナーでした。また、仕事に対するスタンスについてもお話し頂き、どんな仕事に対しても自分なりの目的を持つことの重要性を学ぶことができました。
MACHIBIYAインタビュー
オススメの本は、「竜馬がゆく」
好きな言葉は、「しあわせは いつもじぶんのこころがきめる」 (相田みつお 詩人・書家)、「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」(灘高の伝説の国語教師、橋本武さんの言葉)
今村 まゆみ氏(観光まちづくりカウンセラー/地域活性化伝導師)
1988年4月株式会社リクルート入社。1989年より14年間に渡り、国内旅行情報誌「じゃらん」編集部に所属。うち6年間は、「じゃらんガイドブック」編集長を務める。2003年10月に同社を退職し、フリーランスで「観光まちづくりカウンセラー」「エディタ-」として活動。20代~30代のOL、子供を持つ団塊ジュニア、LOHAS志向の高い女性、団塊世代の男性をターゲットにした雑誌・インターネットサイトなど、幅広いメディアでの編集経験をいかし、各世代の志向性を捕らえながら、旅行客の視点に立ち、地域資源の発掘から、旅行ルートや特産品開発の企画、メディアへのPRまでのサポートを行っている。(2017年9月現在)
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