坂 茂 プロジェクツ・イン・プログレス
六本木にあるTOTOギャラリー・間で現在開催中の建築家・坂茂氏の個展「坂 茂: プロジェクツ・イン・プログレス」に行ってきた。
坂氏といえば、紙管を構造体に使った建築で世界的に有名な建築家だ。2014 年には災害支援と多方面に及ぶ建築活動が高く評価され、建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を受賞したことでも話題になった。おそらく、建築を学んでいる学生なら一度は耳にしたことのある名前だろう。
坂氏は、「ポンピドー・センター – メス」(2010 年/フランス)や「大分県立美術館 OPAM」(2014 年/日本)など、世界中で建築の設計に携わる一方、災害支援として紙管を構造体に使ったシェルターや仮設住宅を手がけている。
「紙管」ってなんだ?と思った方もいるかもしれない。
紙管はその名の通り紙でできた筒状のもので、キッチンペーパーの芯を想像してもらうといいかもしれない。安価で解体・組み立て・再利用が容易な素材であり、坂氏は大胆にもそれを構造体の建材として利用したのである。
今回の展覧会は、現在世界各地で進行中の最新プロジェクトのプロセスを通して、坂氏の設計思想と取り組みを紹介している。改めて「木」という素材の特長や可能性に注目し、これらを多様なかたちで用いた坂氏の作品を模型やモックアップ、映像など様々な角度から楽しめる展覧会となっていた。
メインの展示は、2017 年パリ近郊のセガン島にオープンする「ラ・セーヌ・ミュージカル(La Seine Musicale)」 。約 1,200 人収容のクラシック音楽専用のホールを中心とした複合音楽施設で、坂氏のこれまでの作品の中では最大規模となっている。船の帆をイメージし、日照に対応して回転する太陽光パネルや、木造の六角グリッドで構成した巨大なバスケットで包み込んだ円形の音楽ホールを有していて、パリの新しい文化発信の拠点としても期待されている。
会場には約4mの断面模型や着工から竣工までの定点観測映像などが展示されていた。コンペで使用されたPVなどもあり、新たな建築物が生まれる物語のような仕上がりで映画の予告のような完成度の高いもので、業界の最先端を垣間見ることのできた瞬間だった。
その他、「スイス時計会社本社」、「台南市美術館」、「富士山世界遺産センター」、「竹田市クアハウス」、「モナコ・ケーブルカー駅」、「ポッターズ・フィールド」、「由布市ツーリスト インフォメーションセンター」など複数のプロジェクトの進行状況についても、臨場感あふれる展示で紹介していた。木造大架構の屋根、壁面など、坂氏ならではのダイナミックな外観の中に、従来にない環境性能や居住性の可能性も感じることができる。
大規模木造建築が業界でも注目を浴びるなか、すでに坂氏は木のもつ可能性をここに証明していたと思う。雑誌や本などの印刷媒体ではどうしても伝わらない建物のボリュームや雰囲気が感じられ、意匠はもちろん、構造や材料、環境などの分野からの視点でも面白い展示だった。
展覧会情報
【展覧会名(日)】坂 茂:プロジェクツ・イン・プログレス
【展覧会名(英)】Shigeru Ban: Projects in Progress
【会期】2017年4月19日(水)~7月16日(日)
【開館時間】11:00~18:00
【休館日】月曜および5月2日(火)~5日(金・祝)ただし4月29日(土・祝)は開館
【入場料】無料
【主催】TOTOギャラリー・間
【企画】TOTOギャラリー・間運営委員会
(特別顧問=安藤忠雄、委員=妹島和世/塚本由晴/エルウィン・ビライ)
【後援】
一般社団法人 東京建築士会
一般社団法人 東京都建築士事務所協会
公益社団法人 日本建築家協会関東甲信越支部
一般社団法人 日本建築学会関東支部
坂 茂/建築家
1957:東京に生まれる
1984:クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)を卒業
1982-1983:磯崎新アトリエに勤務
1985:坂茂建築設計を設立
1995-1999:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)コンサルタント設立
1995:災害支援活動団体ボランタリーアーキテクツネットワーク(VAN)設立
『 代表作 』
カーテンウォールの家(1995)
ハノーバー国際博覧会日本館(2000)
ニコラスGハイエック・センター(2007)
ポンピドー・センター-メス(2010)
大分県立美術館OPAM(2014)
『 受賞歴 』
フランス建築アカデミーゴールドメダル(2004)
アーノルドWブルーナー記念賞建築部門世界建築賞(2005)
日本建築学会賞作品部門(2009)
ミュンヘン工科大学 名誉博士号(2009)
フランス国家功労勲章 オフィシエ(2010)
オーギュスト・ペレ賞(2011)
芸術選奨文化部科学大臣賞(2012)
プリツカー賞(2014)
フランス芸術文化勲章コマンデュール(2014)
朝日賞(2015)
JIA日本建築大賞(2016)
書いた人
【マンション・ビル管理会社内定】小平めぐみ(芝浦工業大学工学部建築学科)
世界を股にかけるバックパッカーと田舎での自給自足の生活に憧れる建築学生。大学にて作業着が制服だったらいいのに、と思っている今日この頃。